【第23話】ニップンを分析  さあ! いろんな会社の決算を分析しよう ススム先生の「タイパ決算書分析」塾 

 

さて、「タイパ決算書分析」塾、第22回です。これまで「極洋」で学んだことを、他の会社で応用するのがこれからのテーマです。

 
 

1000本ノックですね。

 
 

じゃあ、1000社やりますか!? たしかに反復学習は効果がありますよ。

 
 

1000社……。わたしは遠慮しておきます。

 
 

ははは。わたしが悩んでいたのは、「極洋の次の銘柄を何にするか」、なんです。
極洋を選んだのは、「1301」。コード番号の一番手という理由だったのですが、最近は130Aとか記号が付いた銘柄が増えてきました。これは将来、銘柄コードが不足する「枯渇問題」に対応するために2024年から導入されたんですが、さて、どうしようかと。

 
 

4ケタなのに枯渇するんですか? 10×10×10×10=1万通りの組み合わせがあるのに……。

 
 

逆に1万通りしかないんです。一度使われたコード番号は上場廃止になっても再利用されないんですよ。

 
 

時代の必須、ですね。じゃあ2000番台で、AとかBとかじゃない、番号だけの銘柄にしたらどうでしょう。新規に上場してきた記号の銘柄は先々の対象にして……。

 
 

そうなると、「2001」の株式会社 ニップン(Nippn)ですね。極洋とかニップンとか、歴史がありますね。若い企業は先々やりましょう。
「ニップン」って、知っていますか?

 

「ニップン」って、知っていますか?

 

水泳選手が出ているCMを見た記憶があります。えっと、製粉業界最古参! 設立は1896年12月……。えっ、江戸時代?

 
 

まさか! 明治時代。明治29年よ。

 
 

長続きしているからいい会社なんだろうけど、日足のチャートは下り坂だなあ。

 
 

でも、月足のチャートを見ると、2023年の初頭、1600円から上昇して2024年には2400円、その後2200円前後という感じ。やはり決算や計画をみないと理由がわからないですね。

 
 

そうですね。株価はランダムなようで、勝手に上下しているわけではないですからね。調べてみましょう。マナミさん、エクセル表を埋めてください。

 
 

はい。。。しばらく時間をください。
できました!

 
 

早かったですね。まさしくタイパ……。

 
 

はい。じつはほとんどの項目はネット証券で見られる業績欄を転記し、載っていないものはIRのページで有価証券報告書から転記しました。期末PER(株価収益率)など、計算式で表示しているものもあります。正確性に問題がありますか?

 
 

いえいえ、まったく問題ありません。基本的に、証券会社のサイトの数字は信じていいと思います。計算式については誤差がありますが大差なく、傾向を見る目的なら問題ありません。
ニップンの過去5年の業績推移(著者作成)
 
例えば、総資産や純資産が関係する計算なら、期末ではなく期中平均を使うべきなのですが、簡易的な計算でも問題ないです。それより計算式自体を間違えないよう、気をつけましょう。
で、カブオ君、ニップンの第一印象はどうですか?

 

「あと、ひと押し!」ほしい… 株価を意識した経営

 

古い企業だし、コツコツやっているのかなと思いましたが、実際はすごく伸びているんですね。利益なんて倍増ですよ。総資産は約4000億円、純資産は約2464億円……。ほんとの大企業だったんですね。知らなかった。

 
 

わたしもビックリしました。粉もの、パスタの会社程度に思っていたので……。
今年(2025年)3月に開かれた個人投資家向けIRセミナーの資料を見ますと、設備投資計画も多彩だし、攻めている感じです。海外展開もすごい。2030年に売上高5,000億円、営業利益250億円という長期ビジョンを出していますが、充分射程内では、と感じました。
ただ、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」としてPBR(株価純資産倍率)1倍以上に向けた取り組みが紹介されていましたが、「配当性向30%以上を目安」以外に目を引くものがなかったのは意外でした。やはり簡単ではないですね。配当性向にしても、2025年3月期の実績は20.80%、2026年3月期の計画でも25.50%ですから、少し寂しい。現状のPBRは0.70前後ですから、「配当すればいい」というものではないと思いますが、なにかあと、ひと押し! と思います。ページで有価証券報告書から転記しました。期末PER(株価収益率)など、計算式で表示しているものもあります。正確性に問題がありますか?

 
 

PBRを0.3引き上げるのは容易ではないですね。それにしても、ふたりとも成長しましたね。カブオ君、ニップンの安全性はどうですか?

 
 

自己資本比率は約60%で徐々に上昇しています。毎年の利益の蓄積だと思います。有利子負債は570憶円ですが、企業規模や総資産からすると過大ではないと思います。期末の現金同等物は414憶円ありますし、取引金融機関は三井住友銀行、農林中央金庫、三井住友信託などですから問題ないのでは?

 
 

金融機関は赤字を嫌がりますが、今の水準や業務基盤を考えると、減益はあってもいきなり赤字になることは考えられないですね。歴史ある企業は衰退する場合と成長しながら永続する場合がありますが、ニップンは後者ですね。
では、次回は極洋とニップンを比較してみましょう。

 
 

はいっ!

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ)
日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE)1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。
主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ「幸せになる3つの買い物」監修、映画「シャイロックの子供たち」銀行監修。 兵庫県神戸市出身。

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