【第16話】タイパで理解! 中期経営計画を単純化 ススム先生の「タイパ決算書分析」塾
ススム先生 カブオ君、マナミさん、「タイパ決算書分析」塾 第16回です。今回は極洋の新中期経営計画のまとめです。
カブオ君 先生、そんなことより、衆議院選挙で与党が過半数割れだったのに日経平均株価が下がらなかった理由がわかりません。
先生、そんなことより、衆議院選挙で与党が過半数割れだったのに日経平均株価が下がらなかった理由がわかりません。
カブオ君は毎回動揺しているわね。前回は“石破ショック”だ! と騒いでいたじゃない。アメリカの大統領選挙もきっと動揺するわよ。
でも実際、カブオ君みたいな人がいるから市場が成り立つとも言えるわけで……。
それより、私も少し驚いたことがあって……。
目次
証券会社はそう簡単に“儲け話”を持ってこない!
先生が驚くなんて、なんですか?
先日、大手証券の担当者が来たので「担当先の個人で決算発表や中期経営計画を見ている人ってどれくらいの割合ですか?」と質問したら、「お一人だけです。他のお客さんは見ていないです。我々が薦める銘柄や債券、投信、外国株を売買しているだけです。調べるといってもPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、配当利回り。これだけです。過去からの推移を調べる人なんていません。あとはIPO(新規公開株式)クレクレですかね」と即答でした。ホールセールの担当者なので個人顧客を何人持っているかはわかりませんが、なんとたった一人とは……。」
勉強するのが虚しくなりますね。
その担当者の体感としては「ネット証券を活用している人はチェックしている人が多い」と言ってました。わかる気がします。
ネット証券の利用者は投資の結果について完全に自己責任だし、ネット環境を使いこなして駆使できるから、より高度になるわね。一方、証券会社の担当者がついているような顧客層は、資産家や上手に付き合っている人も多いでしょうけど、「証券会社が薦めるから」と自分のために言い訳ができるし、自分で勉強するのはめんどくさい、担当者にオイシイ話を持ってこさせよう、という顧客も多い気がします。高齢者がメインなのかな。“ネットリテラシー弱者”も多そうだし。
でも、儲け話が来ればいいんじゃない?
カブオ君、銀行や証券会社はそんなに甘くないですよ。「顧客本位の業務運営」を唱えていますし、その姿勢は実現しつつあります。しかし、昔ほど露骨ではないですが、自分の成績のため、収益のため、というモチベーションは依然として強いです。理想は会社も顧客もwin-winですが、そこはビジネスですからね。
銀行もそうですか? 証券よりマイルドな気がするけど。
金融商品を扱っている以上、同じです。銀行が、証券が、というより個社の社風や個性の影響のほうが大きいかもしれないですね。
脱線しましたが、極洋に戻りましょう。前回で、新中期経営計画の骨子は頭に入りましたか?
もちろんです。メインテーマは『Gear Up」Kyokuyo2027』。「強いキョクヨーへ」で、その実現のためのミッションとともに6つのKPIが示されていました。KPIは、売上高4,000億円、営業利益135億円、経常利益135億円、海外売上高比率15%以上、ROIC(投下資本利益率)6%以上、DOE(株主資本配当率)3%以上の6項目です。
そうですね。で、我々がすべきことは?
業績の進捗チェックです。
それだけですか?
業績の進捗チェックは当然ですが、DOEで示された配当政策など、決議事項にも注目しないといけないと思います。業績だけでなく、計画全体の進捗も見なければ……。
シンプルに! 売上高や経常利益の進捗だけでいい
私が思うに、我々が行うべきは自分なりのストーリーを持って単純化することです。難しく考えずに。新中期経営計画は「こう進捗していくんだな」とイメージするんです。
全然タイパじゃないし、めんどくさい。。
シンプルに取り組みましょう。キョクヨーの新中期経営計画(2024年度~26年度)は2024年5月10日に発表されています。PERは1株利益をベースとしますが新中期経営計画では営業利益、経常利益しか公表されていないので、経常利益の伸び率を計算しましょう。
2024年3月期の経常利益は88億56百万円で、新中期経営計画では2027年3月期 135億円です。よって52%増です。3年間で52%増ということは、単純平均で年間17%の増加です。
増大していくわけですから、複利計算だと?
えっと、年間15%の増益を3期間続ける計算になります。
そうですね。そうすると2025年3月期の経常利益は88億56百万円×115%=101億84百万円、おおむね100億円がスタートの1年目としてほしいこととなります。これは極洋が公表している25年3月期の業績予想での経常利益100億円予想と一致します。
単純に15%増益を続けようと策定したのかな?
それはわかりません。ただ、初めの1年目に15%の増益を達成していないと後半の2年がかなり厳しくなることは予想できますね。“神風”なんて、そう簡単に吹かないですから。
そう考えると、1年目の100億円の経常利益ということはもうすぐ発表される第2四半期がどの程度の利益なのかがポイントになりますね。
こういう話をすれば、もう1年間で100億円の経常利益って、頭に入ったでしょ。複雑にせず、わかりやすい数字で覚えておくのがいいんです。
第2四半期で半分の50億円稼いでいるかな、と見ればいいのは楽でタイパですね。
そうなんです。他にやることも多くて忙しいでしょ。いろんな項目を記憶しようとしないことです。新中期経営計画を読み込むことは良いですが、シンプルに、売上高とか経常利益とか、せいぜいそんなものの進捗で喜んだり失望したりしたらいいんです。そして異常を感じたら、「なぜだ!」と分析すればいい。その時に決算分析の手法を勉強したことが生きてきます。
そう言われると気持ちが楽になりました。タイパだ!!
主体的なタイパ、とでも言いましょうか。次回は極洋で学んだことを活用して、他の銘柄に適用できるかどうか、学習しましょう。
はいっ!
プロフィール
井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ「幸せになる3つの買い物」監修、映画「シャイロックの子供たち」銀行監修。 兵庫県神戸市出身。