【第21話】決算数字の「なぜ」を考える まとめ⑤ ススム先生の「タイパ決算書分析」塾 

 

「タイパ決算書分析」塾、第21回。今回はタイパな分析のまとめ、5回目です。5月12日、極洋の決算短信が出ましたね。見ましたか?

 
 

 はい。売上高は前期比15.7%増収、営業利益は25.8%増益、経常利益も22.6%増益と目を見張る成績でした。2025年3月期の配当金が130円、2026年3月期の予想配当金が150円という点も「株主のほうを向いているな」という実感を受けました。130円でも配当性向は22.9%ですね。

 

業績がいいのに「現金等」が減ったワケ……

 

理解しやすいようにを作成しました。2025年3月期の実績と期初予想、そして26年3月期の予想も入れています。

 
項目単位2024年3期実績2025年3期初予想2025年3期実績2026年3期実績
1売上高百万261,604300,000302,681350,000
2営業利益百万8,80610,00011,07912,500
3経常利益百万8,85610,00010,85712,500
41株あたり当期純利益548.61589.35567.48690.38
5総資産百万160,720 182,125 
6総資産経常利益率%5.51 5.96 
7売上高経常利益率%3.39 3.59 
8総資産回転率4.44 4.43 
9純資産百万58,860 68,355 
10自己資本比率%36.7 36.5 
11現金同等物期末残高百万8,452 7,514 
12一株あたり総資産4,965 5,600 
13年間配当金100110130150
14配当性向%18.218.722.921.7
15期末株価3,740 4,150 
16期末配当利回り%2.67 3.13 
17期末PER6.8 7.3 
18期末PBR0.75 0.74 
19経常増利益%8.24 22.5915.13
20期末DOE%2.01 2.32 
※PER=株価収益率、PBR=株価純資産倍率、DOE=株主資本配当率
 

こういうを作成すると理解しやすいですね。

 
 

そろそろ生徒さんに作ってもらいたいです……。何度も言っていますが、時系列と予想との対比が大切です。よい決算でしたが、予想との対比はどうでしょう?

 
 

売上高、営業利益、経常利益、いずれも期初予想を上回りました。当初は達成できるのかな、ハードルが高いなと思っていましたが、見事です。配当も予想より20円増えて、25年3月期末の配当利回りは3%を超えました。
一方、1株当たり利益だけが予想を下回りました。これは期中に行った増資の影響だと思います。

 
 

あ、そうだったのか。

 
 

決算の数字がよかった、悪かっただけではなくて、「なぜなのか」を考えるのが大切です。アナリストや取引銀行のような詳細な分析をする必要はありませんが、タイパなりに感じるものがあるはずです。総資産経常利益率についてはどうですか?

 
 

0.2ポイントというと、とても小さな数字に思うかもしれませんが、企業は0.1ポイントの向上のために必死に努力しているのですよ。その他の項目はどうですか?

 
 

増資と利益剰余金の増加によって純資産は100億円弱増えていますが、自己資本比率は横バイです。これはいいのでしょうか、悪いのでしょうか?

 
 

以前も言ったように、自己資本比率は一定以上必要ですが、資本の効率化や成長のためには高すぎると、もったいない面があります。一概に良い、悪いではなく、その業界や企業にあった水準があるんです。おそらく極洋は35%~40%くらいが、居心地が良いのでしょう。
一定の自己資本比率を維持しつつ、利幅を拡大して期初予想を超える増収、増益となった、という決算だったと評価できると思います。現金及び現金同等物についてはどうですか?

 
 

9億円弱減っています。業績がいいのになぜだろう?

 
 

決算短信を見ればわかるわ。営業活動によるキャッシュフローで58億円の増加、投資活動によるキャッシュフローで90億円の減少、財務活動によるキャッシュフローで21億円の増加となっている。つまり、将来への投資によってキャッシュは減少したものの、事業活動によるキャッシュの増加と資金調達によって一部カバーした、ということだと思います。

 
 

そうですね。投資の判断には投資効果や減価償却などが注目されますが、とても重要なのはその資金をどうやって調達するかです。極洋の場合、財務活動によるキャッシュフローに大きく頼ることなく、投資額の過半を営業活動によるキャッシュフローで調達できていますから上手に行った感があります。財務活動には金利などのコストが伴いますからね。

 

企業は何度も生き返る!

 

今回ので「経常増益率」という指標が出ていました。これは、前期比較で単純に増益率を計算したものですか?

 
 

そうです。計算式は簡単ですが、企業の成長性を考えるうえで使える数字です。社会も経済も企業も流動的なものですから、常に好調というわけではなく、好不調の波があるのが通常です。そんな中で前期に引き続いてプラス成長となり、しかも22%という高い成長率です。26年3月期についても15%という高い成長率を予想しています。どこかで成長の天井は来ますが、足元は成長期にあるという感じがしますね。

 
 

たしか、極洋は1937年設立だったと思います。人間だったら90歳近い後期高齢者なのに、企業は成長期とは…… おもしろいですね。

 
 

まさしくそれが企業経営のダイナミズムであり、長期保有株主の醍醐味ですね。倒産しない限り企業は何度も生き返ることができるんです。

 
 

それでよく「100年企業」とか言うわけですね! 最後の「期末DOE」は株主資本配当率のことですね。

 
 

以前に勉強しました。極洋の場合、中期経営計画で示された6つのKPIのうち、DOEは3%以上を目標としています。25年3月期の実績は2.32%なので、まだ増配の可能性があると思います。

 
 

そうですね。株主資本が急に減ることは考えにくいですから、目標達成のためには配当を増やす方向になるでしょう。配当性向はどうですか?

 
 

5年3月期が22.9%、26年3月期の業績予想ベースでは、1株当たり配当金150円で計算すると配当性向は21.7%です。もしDOE目標の3%を達成しようとすると、仮に株主資本が変わらないとしたら、配当金は現状の2.32%から3%へ、つまり約1.29倍(3% ÷ 2.32%)にする必要があります。
25年3月期の配当金130円を基準に考えると、約30%増配の170円程度(130円 × 1.29 ≒ 168円)です。この場合、26年3月期の予想1株当たり利益で計算すると、配当性向は約24.6%(170円 ÷ 予想EPS)になりますね。キリがいい25%くらいを目指してほしいです。
EPS=一株あたり当期純利益

 
 

話を聞いていて、二人とも企業を見る目利きがついてきましたね。配当なり利益なり、あるいは純資産なり、何かを基準に数字を見ていくと合理的な理解が進みます。次回以降は、極洋を離れて他の企業を分析して、極洋と比較してみましょう。新たな気づきがありますよ。

 
 

はいっ!

 

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