【第5回】テニスのR.フェデラー選手が教えてくれた!? 株式の短期売買をやめたほうが良いワケ

ゲームを長く続けると勝率は上がる!

2022年に惜しまれつつ引退した男子プロテニス選手ロジャー・フェデラー。テニスの4大大会で通算20回優勝し、シングルスの生涯成績は1251勝275敗という超ド級の成績を残した。勝率82%という驚異的な数字だ。

しかし彼が取った点数は全体の54%しかないそうだ。逆に言えば46%は相手に点を取られていたということ。接戦の連続であったということだし、楽勝の試合など、まずなかったとも言える。フェデラーがいくら強かったとはいえ、トッププロ同士の力量の差は非常に小さいのだ。

では、フェデラー勝率を上げるために、どうしたのだろうか?

それは、「長くプレーする」ことだった

男子プロテニスの試合には5セットマッチ(4大大会)と3セットマッチ(4大大会以外)という2種類がある。それぞれの試合でフェデラーが挙げた勝率を見てみよう。

  • 5セットマッチ(4大大会)の勝率    86.0%
  • 3セットマッチ(4大大会以外)の勝率  77.6%

なんと5セットマッチの勝率のほうが一割近くも高いのだ。セット数以外に本質的な違いはないはずのに、こんなに差が出るとは……

しかし、じつはこれは当然の結果なのである。フェデラーは、実力的には明らかに世界一の選手だった。ただ、他の選手との差がそれほど大きいわけではないので、ちょっとした運によってその差が逆転されることも少なくなかった。先ほど書いたように「次のポイント」を取れる確率は54%しかなく、五分五分に近かった。

それでも試合の時間やセット数長く続けていけば、少しの実力差がじわじわと効いてくる。生涯勝率が82%という高さであるのはそのためだ。しかも比較的試合が短い3セットマッチのゲームの場合は勝率77%にとどまっているのに対し、より長く5セットマッチであれば運の要素をさらに下げることができ、86%も勝てている。ゲームを長く続けることによって、実力の差がより反映されるようになり、勝率が上がることになるのだ。

じつは、投資においても同じことが言えるのである。

米国を代表する株式指数であるS&Pについて1928年から2023年の間の統計を見ると、ある日の価格が上がる確率は54%であったそうだ。つまりフェデラーのポイントと同様に、その日に上がるかどうかは五分五分よりもちょっとだけ高い、という状態にあった。その日に株価が上がるか下がるかはコイン投げに近く、まったく予想がつかないということだ。

しかし、一度買った株式を長く持ち続けていくと、ちょうどフェデラーの勝率が長くゲームをすることで上がったように、投資家が俄然有利になる。

それを示すデータがあるのでご紹介したい。1926年から2019年までの米国の株式投資のリターンを保有期間別に示したものである。

  • 1か月保有した場合   儲かった確率62%   損した確率38%
  • 1年保有した場合    儲かった確率75%   損した確率25%
  • 5年保有した場合    儲けた確率89%     損した確率11%
  • 10年保有した場合   儲けた確率95%     損した確率5%
  • 15年保有した場合   儲けた確率99.8%   損した確率0.2%

つまり、株式を買って1月間売らずに保有していると、62%の可能性で価格が上がった(38%の確率で価格が下がった)ということだ。1日だけ保有した場合に上がった確率は54%だから、上がる確率が8%アップしたということだ。

1年保有していた場合だと、価格が上昇する確率は75%にアップした。そして5年間保有していれば89%、そして10年では95%、というふうに上昇する確率が着実に上がる。長く保有するほうが有利であることがデータによってはっきり示されるということだ。

驚くべきは15年保有していれば99.8%の確率で儲かるというデータだ。すなわち500回のうちの499回上がる、つまり500回に1回しか下がらないということである。

結局、長期間保有しているほうが有利であるということだ。

 

企業の利益が加速度的に増えれば、株価も急上昇する仕組み

これの主な要因としては2つが重要であると私は考えている。

(1)株価は長期的には上がっていく傾向にある。

今まで見てきたように、株式相場は一日とか一週間という短期で見た場合はギャンブルに近い。株価がきょう上がるかどうかはほぼ五分五分の確率。当たるも八卦当たらぬも八卦ということだ。

しかし、より長い目で見れば株価は企業の利益を反映して動いていく、というのが株式の理論の大原則である。そして経済全体として見れば、科学技術の発展やノウハウの蓄積、新しい市場の開拓等々によって企業利益はゆっくりと上昇していくと考えられる。株価が一日に上昇する確率が54%と、50%を少し上回っているのはそのためである。

例えば輸送の歴史を振り返ると、馬車や籠で人を運んでいた時代が続いたあと、電話や電車が登場し、さらに自動車と飛行機の時代になった。それにより企業の生産性は着実に向上してきた。昨今はさらにコンピューターやスマートフォンが我々の生活を一変させている。数年あるいは数十年のスパンで見ると、技術の進化が企業の利益をどんどん高めている。今後もロボット、ドローン、自動運転車、遺伝子技術、原子力、宇宙開発……。さらなる技術発展により企業の利益が上がっていく余地が数多くある。

このところ世界の先端技術をリードするアメリカの企業が素晴らしい業績を上げていて、それにより株価がどんどん上がってきたのはそのためである。日本など他の国の企業もその恩恵を受けて、株価がそれなりに上がってきたが、アメリカには遠く及ばない。

ともあれ数年あるいは数十年のスパンで企業の収益性が上昇する可能性が高くなるのはそのためだ。株式を長く保有していればするほど、株価は上がる確率は上がっていく。

 

(2)複利効果がある

複利効果は投資で最も重要なポイントの一ついや最重要のポイントと言っても良いくらい大事なことである。複利効果をきちんとわかっていない人が投資をするなんて「100年早い」と言いたいくらいだ。みなさんにはぜひ複利効果を十分に習得していただきたい。

ここで複利効果の基本をおさらいしておこう。

株式に投資するというのは、会社という名の果樹を買うようなものだ。その木からリンゴや桃や栗がなっていき、それによって利益が生まれる。大事なのは、実った果物を販売するだけではなく、できた実から取った種を植えて新たな果樹を育てていくことだ。

そうすると年月を重ねていくことで果実の増え方が増していく。ねずみ算的、幾何級数的、指数関数的な増え方という言い方もある。果実が果実を生んでいくことで増加に拍車がかかるということだ。

仮にリンゴの収穫高が1年に一割ずつ増えていくとしよう。今年が100キログラム(㎏)だとすると、来年は110なる。重要なのはその次の年の収穫高は120ではなく121(= 100㎏× 1.1× 1.1)になることだ。毎年10増産されるのではなく、前年に増えた分を含めた全体が増えていく。時が経てば経つほど生産高は加速度的に増えていくということだ。

 

  • 今年     100kg
  • 1年後    110kg
  • 2年後     121kg
  • 3年後     133kg
  • 4年後     146kg
  • 5年後     161kg
  • 10年後    259kg
  • 15年後    417kg
  • 20年後    672kg
  • 25年後   1,083kg

 

そうすると10年後には2.6倍、20年後には6.7倍、25年後には10倍になるのだ。毎年収穫されるリンゴをすべて食べてしまう人には及びもつかない利益が得られることとなる。

企業の利益が加速度的に増えるということは株価もそのように上がっていくということを意味する。じっくり腰を据えて株を保有していれば、何倍にも増えていくことも夢ではない。

 

以上、株を短期的に売買するのは得策ではないという議論を展開してきた。しかし、だからといって長く株式を保有さえしていれば確実に儲かる、などという単純な話ではない。あくまで長く保有することで儲けられる確率が上がるというだけの話であり、絶対に損をしなくなる、などということはない。フェデラーが試合で100%勝ち続けることなど不可能なのと同様だ。

 

市場は全体的にそして中長期的には上昇していく場合が多いが、時に大きく下がる場合もある。

例えば、日経平均株価を見ると……

リーマンショックの時は

18,300円(2007年2月26日)  6,994円(2008年10月28日)

と6割下がった。

 

コロナショックの時も

2万4,083円(2020年1月20日)  1万6,552円(2020年3月19日)

というふうに、大きく下がった。

 

このように株式市場が下落していく時にどのように対処していくべきだろうか?これについては今後さらに話を進めていきたい。きょうはこのあたりで……。

注:本稿の執筆に当たっては ”Patience as an edge” Market Sentiment を参考にさせていただいた。謝意を表したい。

(小田切尚登)

プロフィール

小田切尚登

明治大学グローバル経営大学院ビジネス研究科兼任講師(金融論)、音楽家

東京大学法学部卒。バンク・オブ・アメリカ、バークレイズ、BNPパリバなどの大手外資系金融機関でアナリスト、資金運用部門などで勤務。その後、経済アナリストとして独立。経済誌・新聞などで数多く寄稿しているほか、経済専門テレビ(米国)のCNBCとブルームバーグに出演した。現在、パシフィック・テック・ブリッジのシニア・アドバイザー、ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。音楽スペースのシンフォニー・サロン(東京・門前仲町)を主宰。1957年生まれ、東京都出身。

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