【第5話】配当って、なんだ!? ススム先生の「タイパ決算書分析」塾

 

カブオ君、マナミさん、「タイパ決算書分析」塾の第5回目です。

 
 

今回は配当金についてですね。楽しみです。配当長者になりたい!!

 
 

引き続き、「極洋」で考えてみましょう。
配当金は会社四季報やネット情報で簡単に見つかりますが、IR資料に慣れるため、決算短信で確認しましょう。カブオ君、どうですか?

 
 

2023年5月12日の決算短信で、23年3月期は100円、24年3月期は予想として90円とあります。減配かぁ……。

 
 

〈注〉に2023年3月期末配当金は普通配当90円、記念配当10円となっているから、2023年3月期が特別だったのよ。でも、創立85周年記念配当って不思議な区切りだわ。

 
 

直近の第2四半期(2023年4月1日~9月30日)決算短信でも、配当の状況は修正されていませんね。
カブオ君、株価が3800円として、24年3月期の配当利回りはいくらですか?

 
 

90円÷3800円=2.36%です。
申し訳ないけど、魅力を感じないなぁ。

 
 

それでは視点を変えて、配当金は決算資料のどこに載っていますか?
2023年6月27日付の有価証券報告書で探してみてください。

 
 

えっと、配当金は日本証券業協会の「投資の時間」という公式サイトで「会社が得た利益の一部を株主に還元するもの」とあるので、損益計算書に載っていると思いますけど……。
あれ、ないっ!

 
 

マナミさん、老眼じゃないの??
あれ、ないっ!

 
 

そうか! 損益計算書じゃなくて利益処分案だ。
あれ、ないない……??

 
 

マナミさん、残念でしたね。
以前は利益処分案がありましたが、平成18(2006)年5月の新会社法施行によって廃止されて、株主資本等変動計算書というものが新設されたんです。損益計算書の次に載っている「株主資本等変動計算書」で配当金を探しましょう。

 
 

あ~!! あります。剰余金の配当、これかぁ。

 
 

配当金は当期の利益の処分というよりも、蓄積した利益の減少ということですか?

 
 

そうなんですが、よく見ると同じ額が株主資本合計や純資産合計の列もマイナスされていますよ。

 
 

単純に利益から株主に配当する分け前だと思っていましたが、純資産が減少するわけですね。

 
 

そうなんです。もちろん利益の処分という面も大きいですが、じつは純資産の問題なんです。ちなみに配当も2種類あって、この例のように利益剰余金を原資とする通常の配当と、資本剰余金を原資とする配当があるんです。税務上、前者は配当所得、後者は譲渡所得となりますが、すこしややこしいですね。

 
 

資本剰余金なんて、私には関係ないわ。

 
 

そんなことはないですよ。一般の会社でもありますが、REIT(不動産投資信託)やインフラファンドは資本剰余金からの配当がよく発生します。

 
 

うーん。でも結局、配当金って多いほうがいいんじゃないの?

 
 

前に習ったように、純資産が減少するから利益率が高い会社は配当しないで、その資金を事業に回したほうがいいんじゃないですか?
利益も増えるし株価も上がるんじゃないの?

 
 

ちょっと待って!

 
 

プレイバック!プレイバック!…… って古くてごめんなさい。

 
 

ネタがわからないわ!

 
 

でもね、本屋に行ったら高配当株がどうのこうのという雑誌が山積みですよ。世間は株主還元をやれやれって言っているんじゃないですか。

 
 

そうだわ。配当性向を高く、なんてネット記事を読んだ記憶があるわ。

 
 

それじゃあ、配当性向を見ましょう。配当性向はどう計算しますか?

 
 

知ってます。1株当たり年間配当金÷1株当たり当期純利益×100 ですよね。

 
 

そのとおり! じゃあ、極洋の配当性向を調べましょう。これもIR資料で探しましょう。決算短信を見て下さい。

 
 

あっ、計算しなくてもそのまま載っていますね。2022年3月期が20.9%、23年3月期が18.5%、24年3月期は予想ですが16.1%です。だんだん低下していて、なんか印象悪いなあ。

 
 

しかも、23年3月期は特別配当をして18.5%でしょ。純資産を増やす大切さはわかるけど、株主を軽視している気がします。利益が増えているなら、増配すべきだわ。

 
 

この点についての誤解をなくすため、利益配分に関する基本方針で「安定配当を継続しつつも、中長期的な利益成長による配当水準の向上を目指します」と書いていますよ。

 
 

でも5%くらいの配当利回りは欲しい。配当性向は40%とか50%になるかもしれないけれど半分以上は残るわけで、株主に報いて欲しいです。

 
 

なるほど、そういう考えもありますね。じゃあ、極洋が配当金を5倍にして1株当たり450円、1株当たり当期純利益が559.88円の予想ですから配当性向80%とすることにしたら歓迎しますか。

 
 

もちろんです。株価が3800円として11.8%の配当利回りなんて夢のようだ。100株持っていても4万5000円も配当金が入るんですよ。ぜひ、そうして欲しい。株価も倍になるぞ。それでも利回りは6%じゃないですか!!

 
 

確かに株価が倍の7600円になったら、極洋の1株あたりの純資産は4436円だから、PBR(株価純資産倍率)は、7600円÷4436円=約1.71倍になって、PBR1倍以下から脱出できるわ。

 
 

みんなハッピーじゃないか! 株主になって株主総会で提案するぞ!!

 
 

カブオ君、興奮しないで! そんな単純なものならみんなやっているでしょ。
世の中、そうじゃないのよ。ともかく多ければいいと思っていた配当金、高ければいいと思っていた配当利回りが、そんな単純なものではないことはわかってきました。

 
 

そうですね。じつは無理して増配している会社もあるし、会社にはいろんな発想があるんですよ。高配当株で楽勝人生を考えているお二人には申し訳ないですが、もう少し深く考えることが必要のようですね。

 
 

はいっ!

 

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ

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