【第13話】株価乱高下! その時わかる決算書分析の意義 ススム先生の「タイパ決算書分析」塾 

 

カブオ君、マナミさん、「タイパ決算書分析」塾、第13回です。
今回は極洋が発表した「中期経営計画を見よう」というテーマですが、おふたりとも何か言いたげですね。

 
 

決算分析が大切なことはわかっていますが、それより株価の大暴落や乱高下が……

 
 

私も日経平均株価の乱高下に驚きました。8月に入ってから1日が975円49銭安で驚いたら、翌2日が2,216円63銭安、土日を挟んで月曜日が4,451円28銭安。3万円を切るかと思うくらいでしたけど、翌日は3,217円04銭高……。もうドキドキします。

 
 

凄かった。言っていいのか悪いのか、全体がこんなに変動するのに決算書の分析なんて意味あるのか、と思ってしまいました。一所懸命に勉強しても入試に落ちたら意味ない、練習しても試合に負けたらタイパ悪い、そんな感じです。

 

 

乱高下する株価 決算書の分析なんて意味あるの?

 

カブオ君の気持ちもわからないではないですね。歴史的な日々の日経平均株価と、われら極洋の前日比の騰落率を比べましょう。

 
 

単純計算なら、任せてください。8月の前日比の騰落率です。
8月1日 日経平均騰落率は▲2.49%  極洋は▲3.21%
8月2日 日経平均騰落率は▲5.81%  極洋は▲4.20%
8月5日 日経平均騰落率は▲12.40% 極洋は▲8.24%
8月6日 日経平均騰落率は+10.23% 極洋は+6.23%
8月7日 日経平均騰落率は+1.19% 極洋は▲0.41%
8月8日 日経平均騰落率は▲0.74% 極洋は▲0.14%
8月9日 日経平均騰落率は+0.56% 極洋は+0.82%
個別銘柄のほうが日経平均株価より値動きが激しいと思っていたのですが逆ですね。

 
 

極洋という一つの銘柄の、しかも数日間の値動きだけで決めつけるのは適切ではありません。ただ、せっかくのデータですから考えてみましょう。カブオ君、日経平均株価のほうが、値動きが激しいと思った根拠は?

 
 

えっと、なんとなく……。5日の▲12.40%なんて強烈です。ニュースでもトップで報道していました。

 
 

そんなんじゃなくて、騰落率の平均を計算したら?

 
 

それでは、たった7日間ですが、前日比騰落率の単純平均を計算してください。

 
 

日経平均株価が▲1.35%、極洋が▲1.31%です。
あれ、それほど差がないなあ。すごく上下した気がしたんだけど。

 
 

では、そのバラつきの度合いを計算するには?

 
 

あ、標準偏差ですね。高校で勉強したわ。懐かしい。
標準偏差の2乗が分散!カブオ君、計算して!

 
 

ボクの頭ではムリです。この歳になって標準偏差とかあり得ない。

 
 

カブオ君、この講座はタイパが目的です。表計算の関数を使ってください。標準偏差にはいろいろな種類がありますが、シンプルなものを使ってみましょう。

 
 

なるほど。関数の挿入で標準偏差……。STDEVか。
日経平均株価が6.93%、極洋が4.54%です。
平均値は似たり寄ったりなのに、散らばり具合は日経平均株価のほうが約2.5%も広かった。「ブレが大きい」という感じはこれだったのか。高校時代の勉強が役に立った。

 
 

それそれ! 私、高校の頃は数学や社会が好きじゃなくて勉強しても社会に出たら使わないのに、と思っていたんです。でも、細かな計算式は忘れても、平均とか標準偏差とか傾きとか、数学的な切り口って結構あることに働きだしてから気づくことが多いです。
海外旅行に行くようになって地理や歴史をもっと勉強しておけば、と思ったし、いろんな事件も急に起きるわけではなく歴史がある。近代史くらいはもっと勉強しておけば、と後悔してます。

 
 

いい発見ですね。勉強って直接的でなくともいつか、どこかで役に立つんです。資格や学歴だけが成果ではない。金融の世界なんて、まさしく社会、数学、英語、人間心理、いろんな要素が活躍する場ですね。今からでも遅くないですよ。

 
 

なるほどな。社会人の学び直し、というのは聞いたことがあります。

 
 

リカレント教育ですね。厚生労働省のサイトをみるといろんな施策が載ってます。
さて、極洋について決算書を分析した効果は感じましたか?

 

人間はそんなに“泰然自若”としていられない!

 

事業の内容を自分なりに理解し、自己資本比率や収益性のレベルや推移も頭に入っていました。なので世界的に株価が乱高下していても平気だった……

 
 

人間、そんなに泰然自若としていられるでしょうか?
実際に極洋の株を持っていないと他人事だし、、あるいは後になって見返すと、はナシですよ

 
 

私は、円高がさらに進むと売り上げは減る、株価はもっと下がるんじゃ、と、ビビッたと思います。8月1日の前日比130円安くらいまではそのうち戻るかな。2日の165円安はさすがに不安。5日の310円安はメンタルが耐えられるかな、という感じです。信用取引の人が投げた、というのも当然な気がします……

 
 


カブオ君、マナミさん。おふたり、いずれも真実だと思います。相場は感情や心理、理性、機械的な売買など、さまざまな要因によって形成されているんです。マナミさんが想像したようにビビる、不安になる、パニックになるなど、まったく珍しくありません。信用取引の場合、含み損の拡大というダメージは当然のこと、保証金が吹っ飛び資産を消失してしまう、場合によっては保証金不足で追証になるのでは、という恐怖も大きい。先物取引の証拠金も同様です。もちろん、損小利大の考え方で機械的に損切りする投資家もいますね。

 
 

では、どうすれば??

 
 

正解はないのです。投資家それぞれ、資産額も違うし資金の質も年齢も違う、購入単価も違えば保有株数も違う。損切り、利食いと言っても、その投資家にとっての損切り、利食いであって、違う投資家にとっては利食いポイントかもしれないし、損切りポイントかもしれない。唯一無二はないのです。よって、皆に共通する正解はないのです。

 
 

なるほど

 
 

自分にとって何が標準か、という軸を持っているかによって行動が変わってきます。決算書分析によって事業の安定度、財務体質にある程度の理解があれば、多少の下げでもパニックにならない、もともと配当や株主優待目当てなら持っていればいいし、下がれば買い増ししてもいい。
しかし、証券会社やSNSなどが推奨したから……などの理由で事業内容も財務体質も経営方針も理解せずに投資していると、疑心暗鬼、不安度が増幅するのは想像できると思います。このような投資は上がればいい、儲かればいいというだけの当てモノですが、こういう姿勢は弱いのです。

 
 

その会社に対する信頼、自分に対する信頼が試されるわけですね。深いですね。

 
 

ボクなりに決算書を分析する、勉強をする、その意味がわかった気がしました。

 
 

よかったです!
では、次回は決算書の分析に戻りましょう

 
 

はいっ!

 

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ

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