【第6話】自己資本は“扇の要”です! ススム先生の「タイパ決算書分析」塾

 

カブオ君、マナミさん、「タイパ決算書分析」塾。第6回目ですよ。
前回(【第5話】配当って、なんだ!? )は、配当と自己資本の関係について考えました。それをベースに配当は高ければ高いほどいいのか、というのが今回のテーマです。

 
 

そうですね。極洋が配当を5倍にして、1株当たり450円、1株当たり当期純利益が559.88円の予想、配当性向80%としたらどう評価するのか、ということでした。
ただ、「株価は上がるでしょうし、PBRも1倍以下から脱出するからいいのでは」というカブオ君の意見は浅すぎると思います。

 
 

たしかに……。そんな気がしてきました。世の中、そんなに甘くないはずだ。

 
 

では、何を根拠に考えるべきでしょう?
カブオ君が言う株価へのインパクトやPBR改善は確かに起きるかもしれません。しかし……。

 
 

配当金は確かにありがたいけれど、配当をせず、自己資本が増えれば会社の利益がより増すよね?

 
 

そうか! 財務ハイライトに載っていたROE(自己資本利益率)が肝かも。ROEは脚注で「親会社株主に帰属する当期純利益÷自己資本」と説明されていて、2021年3月期は10.5%、22年3月期は11.2%、23年3月期は12.8%となっているわ。
10%以上で成長してくれるなら、配当せずに自己資本を増やすほうが、株価が上がるのかな?

 
 

現金が減るのは痛いな。前に見た株主資本等変動計算書によると、剰余金の配当は8億64百万円だから、5倍にすると43憶20百万円が必要になる。現金が減るから、事業に問題が起きるかも?

 
 

有価証券報告書を見てください。現預金はどの程度ですか?

 
 

3月期ですけど、2022年3月期が65憶44百万円、23年3月期が70憶50百万円です。43億円も配当金を支払っていると資金がなくなってしまいます。

 
 

お二人ともよい視点ですね。高配当の問題点はそこなのです。負債をテコとして自己資本を増やしていくのが企業ですが、配当が多すぎると成長を享受できない可能性があるのです。それと現実問題として、配当金は現金を減らしますから、資金繰りに影響します。高配当によって現預金が不足して、借入や債券を発行するとなれば本末転倒です。1期なら可能でしょうが、数期異常な高配当を続けることは現実的ではないのです。しかも高配当で上がった株価の会社に対して、投資家は高配当の継続を求めるから、減配となると売られる厳しさがあります。

 
 

鋭い投資家はそういう企業は避けるでしょうね。増配を発表する役員は気分がいいかもしれませんが、経理や財務といった資金繰りを管理している部署は「やめてくれ~」と思っているかもしれませんね。

 
 

でも、配当金は欲しいな……。

 
 

無配で超高成長の会社と、高配当だけど成長は横バイの会社。どちらを選ぶかは投資家の哲学です。逆に言えば、その会社、その業種が成長セクターなのかという見極めが必要ですね。株価の形成は単純でないですが、成長セクターでなくとも安定した利益をあげて相応の配当金を出している。しかも自己資本が厚い会社の株価は一般的に市場全体が弱くても抵抗力がありますね。

 
 

でも、私は「無配でも超高成長の会社」にも惹かれるわ。

 
 

儲けた利益を配当せずに、さらなる成長に使う。これはまさしく複利運用なのです。ますます成長が加速します。もし、配当金的なものが欲しいのなら、その会社の株式をたくさん買ってちょっとずつ売っていけばいいのです。自分で高還元銘柄を作るのですよ。成長企業の株価は高いことが多いですから、それなりの資金量が必要かもしれませんが……。

 
 

ムリだよ。だから、金持ちだけがますます金持ちになるんだな。

 
 

資本主義ですから、そういう面がありますね。
複利効果はスゴイのです!

 
 

株主はお金を出して会社に働いてもらう。会社は株主が出した資金をタネ銭として成長する。株主は増える自己資本から配当金を受け取ったり、あるいは配当させずに全額再投資をさせて1株あたりの価値が増えていったりするのを楽しむ。だから、剰余金の配当は株主総会の決議事項なのですね。

 
 

そうなんです。会社の経営陣が決めるものでなく、株主が決めるべきものなのです。「会社って株主のものだ」と実感するでしょう。
で、極洋はどうなのでしょう?

 
 

財務ハイライトの売上高をみると、すごく成長しているわけではないけれども、増収を続けている。利益も相応に伸びている。自己資本比率は30%台で資本の使い方としては効率的かつ安定的、ROE12%で株主に利益は報いている。決算短信によると、配当金は記念配当がなくなって90円、配当性向は16%で株主還元としてはやや物足りないけど、緩やかな成長を維持している、私はこんな評価です。

 
 

同意します。

 
 

で、お二人は極洋株を買いますか? 持っていたら売りますか?

 
 

もっと配当が良い会社がありますから、あえて極洋は買いません。やっぱり配当金が……。

 
 

私も悩みます。でも、いろいろ調べているうちに愛着が沸いてきました。会社の設立が1937年、上場が1949年って、すごい歴史です。日本は周りが海だから水産業は強いと思うんです。

 
 

確かに……。
それにしても、今までは利益や配当しか頭になかったのですが自己資本を中心に考える重要性を初めて知りました。自己資本は「扇の要」なのですね。

 
 

上手に言いますね!!
では、次回は決算書から極洋の強み、弱みを深掘りすることとしましょう

 
 

はいっ!

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ

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