【第15話】中期経営計画の実現可能性をさぐる ススム先生の「タイパ決算書分析」塾 

 

カブオ君、マナミさん、「タイパ決算書分析」塾、第15回です。今回は極洋が策定した中期経営計画の実現可能性について学びましょう。

 
 

先生! そんなことより、“石破ショック”が気になって仕方ありません。この先どうなるんですか?

 
 

この先? そんなの、誰にもわかりませんよ。わからないからこそ、分析や予測のビジネスが成り立っているんです。

 
 

それに、カブオ君。“石破ショック”はまだ始まったばかりかもしれないし、焦る必要はないわよ。浮足立ってどうするのよ!

 
 

二人ともメンタル強いなあ……。

 
 

さて、本題に戻りましょう。極洋の中期経営計画は実現可能だと思いますか?

 

中期経営計画は“根性”で達成するもの?

 

会社が公式に発表したんだから、何があっても達成するつもりだと期待します!

 
 

それは根性論みたいなもので、理屈になっていないわ。3年間の計画を示したわけですから、4半期、半期などの進捗度合いをチェックして達成度合いを追いかけるのが現実的だと思います。

 
 

それだと後追いだよね。

 
 

それなら、中期経営計画をじっくり読み込んで、根拠となる要素などを分解、分析して実現可能性を推し量るのが良いと思います。場合によっては工場見学などができるといいですね。過去の計画を見て、「極洋がどの程度実現してきたか」という実績も調べるのも役立つかもしれません。

 
 

それ、いいね!

 
 

そうですか。では、質問しますが、お二人とも本当に分析するつもりですか?
この講座はタイパなんですよ。カブオ君、自分の性格を理解していますか? マナミさん、日々忙しいのにそこまで続けられる自信はありますか?

 
 

あっ。無理です。

 
 

私も無理です。

 
 

そうでしょう。お二人だけでなくて、みんなそうなんです。中期経営計画はとても大切なもので、極洋のように対外的に公表している場合はさらに重みが増します。どの会社でも作っている予算のように社内限定のものとは違います。もし、会社に実現可能性を質問すれば、「100%達成するよう努力する」と答えるでしょう。「策定したけど、実際は80%がいいところ」なんて会社なないのです。
でも外部から、あるいは内部の社員であっても実現可能性を見極めることはとても難しい。細かな要素の積み上げに加え、経営陣が「これやるぞ!」と旗振りする、政治的なものでもあるからです。変化の激しい今の時代で3年というのは長い期間で予想は容易ではありません。だからこそ、スタート時点では「会社が言うには100%達成する」としか捉えようがないのです。

 
 

まるで禅問答ですね。

 

中期経営計画にはコントロールできる要素とそうでない要素がある

 

ただ、マナミさんが言うように、過去の実績は参考になるかもしれません。会社にはクセがあって、保守的に計画を立てるところもあれば、楽観的、攻撃的なところもあります。業種にもよりますし、社風、経営者の考え方にも左右されます。けれども、これも万能ではありません。過去の資料を探し出すのも大変だし、定期的に中期経営計画を公表してきた会社自体、それほど多くないからです。そう考えるとタイパじゃないですね。

 
 

じゃあ「会社が公表したんだから、100%達成すると信じる」しかないんですか?

 
 

そうとは言えませんよ。二つのアプローチがおもしろいと思っています。まず一つはマナミさんが言う、進捗チェックです。3年間で6回の半期、12回の四半期がありますから、その推移を見守るのはタイパ的です。あるいは年に1回、決算で進捗を見るのもタイパですね。売り上げや利益が順調なら、信頼度性が増しますね。

 
 

まるで大谷選手のホームランや盗塁みたいですね。

 
 

うまいこと言いますね。逆に例えば2年目で売り上げが大きく落ちたら、3年目で急回復するのは難しいと考えるのが妥当でしょう。

 
 

故障者リスト入りの後の復活には時間がかかるし、回復するのは手探り……。

 
 

そういうことです。だから、自分が監視している会社の発表を見逃さないことがポイントです。そのためにいろんなサービスがありますよ。例えば日経電子版ならフォロー登録をして、記事や発表があるとメールなどに通知を受けることができます。証券会社や情報サイトでもリマインドやアラートの便利な機能がありますからぜひ活用してください。

 
 

さっそく登録してみます!

 
 

もう一つは、自社でコントロールできる要素とできない要素を分けて考えることです。

 
 

難しそうだな……。

 
 

そうでもないですよ。
例えば極洋の場合、
売上高         4000億円
営業利益        135億円
経常利益        135億円
海外売上高比率     15%以上
ROIC(投下資本利益率) 6%以上
DOE(株主資本配当率) 3%以上
という6つの数字があります。
このうち、売上高や利益については努力や工夫はしますが、ビジネスである以上、相手や消費者があるものだし、マクロ経済や為替などの影響を受けます。しかしDOE、株主資本配当率は取締役会が発議して株主総会で承認されれば可能だから、極洋にその気があれば達成が可能なんです。

 
 

なるほど! 
先生、海外売上高比率もコントロールできますよ。

 
 

ん… ???

 
 

海外売上高が15%に届かなそうだったら、国内の売上高を抑えれば割合を調整できますよ。

 
 

6項目のうちの一つの項目の達成という意味ではそうですが、会社としてそれは正しい方法論ですか?

 
 

絶対、違います! でも先生、確かに自社でコントロールできることとできないことを分けて考えるのは重要ですね。

 
 

もちろん、これらの項目について矛盾はあってはいけませんが、マーケットが何を求めているのか、成長なのか、PBR1倍なのか、という点も含めて考えをめぐらすことはとても意味があると思いますよ。
それでは、次回は極洋の中期経営計画について、復習とまとめを行いましょう。

 
 

はいっ!

 

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ)

日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE)1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。

主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ「幸せになる3つの買い物」監修、映画「シャイロックの子供たち」銀行監修。 兵庫県神戸市出身。

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