【第3話】財務ハイライトで考えよう ススム先生の「タイパ決算書分析」塾

ススム先生は「自己資本比率」で考えた!

 

先生の「勝ちパターン」を教えてください。

 
 

私なら、まず自己資本比率。その推移から謎解きをしていきますね。

 
 

売上や利益じゃないのですね。

 
 

あくまでも、私の切り口です。そもそも自己資本比率って知っていますか?

 
 

脚注に「自己資本÷総資産」と書いてあります。

 
 

個人で言えば、現預金や株や自宅なんかの資産の合計が総資産、住宅ローンなどが負債で、その差額が純資産ですね。借金が少ないほど純資産が多く自己資本比率は高くなると思います。そう考えると、自己資本比率は高いほど安心だわ。

 
 

極洋の自己資本比率って32%。低いんじゃないですか?
有利子負債って借金だと思うのですが、689億円もあります。大丈夫かなぁ?

 
 

それも一つの見方ですね。おふたりは企業に融資している銀行の見方に近い気がします。
銀行には企業の成長を支援するという面がありますが、融資した資金が返ってこないのが最も避けるべき事態なので、自己資本比率が高めのほうが安心する傾向はありますね。でも、株主の側から見たらどうでしょうか?

 
 

一緒じゃないのかな? わ、わかりません。

 
 

出資したお金をタネに、できるだけ成長して還元してほしいのが株主の立場です。例えば、総資産に対する利益率が10%の事業がある場合を考えましょう。自己資本が1億円で負債はなく総資産が1億円の場合、利益は1億円×10%=1000万円ですね。
ところが借金を9億円して総資産が10億円になった場合、自己資本比率は10%で、総資産から生む利益は10億円×10%=1億円になります。ただ、借入金には金利がありますから、2%で借りるとすると9億円×2%=1800万円の金融費用を要し、利益は1億円―1800万円=8200万円となります。自己資本比率100%の場合に比べて利益は約8倍で、結果、株主が受け取る配当金にも大きな差が出るでしょう。どちらがいいですか?

 
 

そりゃ、儲かるほうが……。でも、やっぱり借金が多すぎる気もするけど。

 
 

要するに、高ければいい、低いのは危険だ。いや、低いほうが儲かるといった単純なものではないということです。
自己資本比率の推移、大きく上下した期がある場合は要因、取引金融機関の姿勢、業界としての傾向など、いろんな要因を頭に入れつつ数値を見ることが大切なんです。
私は自己資本比率に経営者の考え方が具現化していると思っています。みなさんが経営者だった場合、どのような自己資本比率の会社にしますか?

 
 

うーん、深いですね。オモシロくなってきました。

 
 

次回もいろいろと考えたり、想像したりするレッスンをしましょう。

 

 

 

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ「幸せになる3つの買い物」監修、映画「シャイロックの子供たち」銀行監修。 兵庫県神戸市出身。

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