【第2回】小田切尚登 による“1億円”講義 個人で資産運用、小規模な資産運用会社を自ら経営するようなもの

明治大学MBA(グローバル・ビジネス研究科)で金融論を担当するようになってから、十数年が経つ。

MBAにはさまざまな学生が集っている。大学を出たての人もいれば、企業で長年勤めてきたベテランのビジネスマンもいる。自分で会社を経営している人や経営者になることを目指している人もいる。留学生も少なくない。ただし、大学院で学ぶことで、ビジネスのプロとして知識やスキルを磨いていこうという姿勢は全員に共通している。

金融論の授業の受講生には、銀行や証券会社などに勤める人や企業の財務部などに勤める人も一部いるが、多くは金融の素人だ。そのため、金融のテクニカルな内容を話ししても、ちんぷんかんぷんになってしまう。

そこで最近は授業の中で資金運用に関する内容の比率を増やすようになった。その理由としては、運用はすべての人にとって大事な事柄であるのに、きちんとした学びの場が少ない、というのが一つ。

もう一つは、運用について学ぶことにより、金融の知識を実践的にとらえることができるからだ。株式とか債券とかについて書物を読んで勉強しても頭に入りにくいが、自分自身の将来(カネ)がかかっていると思えばより真剣に考えるようになる。

運用はすべての人にとって大事なことなのに、学びの場は少ない

個人が資産運用をするというのは、小規模な資産運用会社を自ら経営するようなものである。

大きな企業に勤めるサラリーマンや公務員は、幾重にも守られた生活を送っているが、そういう人も自分のカネを市場で運用していくことで、厳しい自己責任の世界に乗り出すことになる。時に痛い思いもしたりしながら、リスクについて、身を持って学ぶことであろう。

ある学生が「運用については専門家に任せれば良いのではないですか?」と言ってきた。それも可能ではあるが、そのためには手数料を払わなければならない。そして、その専門家が本当に役に立っているのかどうかを確認するためにも、自分ができるだけ知識とノウハウを持つことが望ましい。

大学院の授業では、実際に資金の運用するわけではないが、シミュレーションを行い、さまざまなシナリオを考えていくことで、実践的な感覚が養える。そして大事なことは株とかビットコインとか不動産とかの個別の投資対象に絞るのでなく、広く全体的に投資について考えていくということだ。資産運用というのは個人の財産をトータルで増やすことを目標にしているのだから当然の話だろう。カブライブは株に特化したビジネスであると思うが、このコラムでは投資について、さまざまな角度から解説していきたい。

カブライブ! での連載では、この授業の内容を差し支えない範囲で解説していこうと思う。履修した多くの学生から「おもしろく、興味深い内容だった」という反応をもらっているか、本当にそうだったかどうか、読者のみなさんに判断いただけたら幸いである。

では、“講義”をはじめよう。

運用に関する授業では、次のような課題を学生に出した。

『親類の資産家のおじいさんが亡くなりました。配偶者も子供もいない彼の遺産から、あなたは突然1億円(税金控除後)を手にすることになりました。

質問

1あなたが1億円をどのように分配して運用するかを答えてください。

例 預金10%、金15%、ビットコイン20%・・・

2どうしてそのように決めたか、理由を簡単に説明してください。(100字以内)

前提条件

11億円は消費せず全額投資をすることが前提です。自宅を買う、保険に入る、事業を起こす、といったのはNGです。

2あなたには定職があり、現時点で十分な生活費を得ているが、この1億円以外に何も資産は持っていない、という風に仮定します。』

ポイント 

1あなたは堅実派ですか、それともリスクを取っても財産を増やしたいですか?

2あなたは短期的に増やしたいですか?あるいは長期的にじっくり考えますか?

どうだろうか?

読者のみなさんにも、ぜひ試しに解答を作っていただきたい。大事なことは、ああでもないこうでもないと自ら考えを巡らせながら、答えを考えていくことだ。その試行錯誤のプロセスが一番大事だ。そして、その過程で調べたりしていけば、ただ本などを読んで得られるものとは異なる生きた知識が得られるだろう。

1億円という金額については、金額が大き過ぎて現実性が薄いと感じる人がいるかもしれない。しかし、これから頑張って稼いで、それを運用で増やしていければ、現実的な目標となっていくと思う。遠くない将来にはそれくらいに到達できるように、仕事と運用の両輪で頑張っていただきたい。

で、答え方である。

まず、投資対象にどういうものがあるかがわからなくては回答ができないので、事前の準備として、一般的な投資対象のリストを検討した。

まず最も親しみやすいものは以下の四つだろう。

1現金・預金(円)

2(日本の)国債や社債

3(日本の)株式

4外貨預金、外国株式、外国債券(米ドル、ユーロ、英ポンド・・・)

さらに金融市場ではこういうものにも投資できる

5仮想通貨(ビットコインその他)

6金を始めとする商品(金属、原油、穀物)

そして不動産ももちろん候補である。

7不動産(国内 あるいは海外)

8REIT(不動産投資信託)

最後に、ちょっとした変化球もある。

9骨董、美術品、ロレックス・・・といったもの

ちなみに、以下は除外する。

競馬、宝くじ、カジノ……

「分散投資」を考える

学生たちの回答は大きく二種類に分かれた。

一つは株式や預金、金や債券などの異なる投資対象にある程度の割合ずつ割り振っていく方法だ。数種類の投資対象に資金を分散させて割り振っていく。実際の解答としては、例えば株20%、債券20%、不動産20%、現金・預金30%……というのがあった。

もう一つは、一点集中型とでも呼ぶべきやり方だ。自分が選んだものに突き進んでいこうとするスタイルである。1億円をすべてつぎ込んで東京の投資用マンションを買う、というようなのが典型的だ。

後者のように特定のモノに集中的に投資するというのはリスクが特に大きい。例えばある会社の株に全財産を投資したとすると、その株価が上がれば大きく儲けることができるが、その会社が倒産して株価がゼロになってしまうと、あなたの財産もゼロになる。これはギャンブルそのものだ。

まあ、人生もギャンブルの一種であり、将来どうなっていくかなどということは誰にもわからないことは事実だ。たとえ今日まで順調であったとしても、一寸先は闇である。

しかし、だからこそ投資については不確実な部分をできるだけ減らしていって、上手に増やしていくべきだろう。我々の最低限の目標は「サバイバル」である。まずは死なずに生き延びていくということだ。

全財産を失ったら運用としてはとりあえずジ・エンドとなる。こういう最悪の事態を避けることが投資の第一歩だ。世の中には「自分だけは大丈夫」と楽観的に考える人がいるが、そのようなウマい話があるわけがない。投資家は悪い状況に陥る可能性を想定して行動しなければならない。投資においてはリスク管理が肝要である。

日本人の多くは普段そこそこ安定的な生活をしているので、リスクの怖さを自覚しない場合が多い。しかし実際はあらゆるところにリスクが存在している。戦争、感染症、地震、台風、景気の波、バブルとその崩壊、事故・・・。それらによって相場が影響を受け、運用のパフォーマンスが大きく変わってくる。

最近の例だと、新型コロナウィルス、ウクライナ侵攻が大きく相場を動かした。

それらのリスク要因に対して守りを固めることが基本である。それができないうちから増やすことばかり考える人は失敗するだろう。

では、どのように守れば良いのか?その基本が、今回のテーマである「分散投資」である。

分散投資というのは一つのものに集中せず色んなものに分散して投資するということだ。

同じバスケットに卵をまとめて入れて運んでいけないという言い伝えがある。まとめて運ぶとバスケットを落とした場合に卵がすべて割れてしまうからだ。いくつかのバスケットに分けて運べば、たとえ運悪く一つを落としたとしても、他の卵は割れずにすむ。

具体的にどのように分散をすべきか、という方法論だが、分散投資には大きく三つの種類がある。

(1)商品別に分散する

(2)国別・地域別に分散する

(3)タイミングを分散する

なかでも圧倒的に重要なのが、(1)の商品別に分散することである。

なぜ、商品別に分散するべきかといえばそれぞれの投資商品が別々の動き方をするからだ。

次のは、近年のアメリカ市場での商品ごとの利回りを示したものである。

主な投資商品の毎年のリターン

 2020202120222023 7月末
米国大企業株式(S&P500)18.40%28.70%-18.20%20.6%
米国債券7.70%-1.90%-13.10%2.3%
米国不動産(REIT)4.70%40.50%-26.20%5.5%
24.80%-4.20%-0.80%7.5%
商品相場-7.80%41.40%19.30%0.1%
ビットコイン301%66%-65.50%75.40%

この表は2020年から2023年7月までのあいだに、代表的な金融商品がアメリカの市場で年ごとに、どれだけ上下したかをパーセントで示したものだ (ビレッロが代表的なETFを使ってまとめたデータを使用した)。

米国にはこういうデータが豊富にあるので、今後も折に触れて米国のデータを使っていこうと思う。もちろん日本と米国とでは違う点が色々あるわけだが、今のように居ながらにして世界中の投資ができる時代に、世界最大の金融市場であるアメリカを基準に考えるのは当然のことだろう。

日本の株式市場などアメリカに比べたら吹けば飛ぶような存在に過ぎない。しかも運用のノウハウはアメリカが世界で最も進んでいる。今後もみなさんにアメリカの情報をアップデートしていこうと思う。

ちなみに、ここには最も基本的だと思われる6種類の金融商品を載せたが、下の3つ、すなわち金と商品相場とビットコインは「一物一価」の金融商品である。すなわち値段は世界で一つしかなく、国によって異なるということがない。例えば、金1グラムの市場価格(先物の価格)は世界中どこでも同じである。ただし、この表での通貨単位は米ドルであるので、円建てとは数値が異なることに注意していただきたい。

この表を見て、ひと目でわかるのは、どの商品も、価格が上がる年もあれば下がる年もあったということだ。これは選んだ期間がたまたまそうだったということもあるが、価格は上がったら必ずその後には下がるタイミングが来る。上がるものは必ず下がり、永遠に上がり続けるということはない。当たり前の話であるが、あらためて確認しておきたい。

そして注目していただきたいのが、年ごとの変動だ。2020年は、おおむね上昇した。2021年もまずまず良かったが、債券と金が下がった。そして2022年は厳しい年で、商品以外はみんな下がったが、翌年の2023年は逆に6つすべてで上昇している。

商品別に見ると、株と不動産は2022年以外は上昇した。債券は2020年と2023年は良かったが2021年と2022年はマイナスだった。一方で、商品相場はそれらとまったく別個の動き方をしてきた。そしてビットコインは我が道を行ってきている。

我々がふつうに投資する金融商品は大きくランダムに変動する

つまり、どういうことなのか?

(1)株、債券、不動産は1割以上上昇する年もあれば1割以上下がる年もあった。相場は非常に不安定である。

(2)金そして商品相場は株や債券とは異なる独自の動きをしてきた。

(3)ビットコインは異次元の高い変動率を示してきた。

これらの特徴は、たまたま2020年以降に見られただけではなく、今まで長年に渡り観察されてきたものである。

株にせよ債券にせよ不動産にせよ、我々がふつうに投資する金融商品は大きくランダムに変動する。これは避けられない。

そして、この表には現れないが、個別の企業の株や個々の不動産の価格はなおさら不安定である。しかし、それらを組み合わせて持っていれば、個々の変動が打ち消し合って、全体としてより安定的なものになるのではないか。

それが分散投資の背景にある考え方である。

商品ごとに変動の仕方が大きく異なるのだから、それらを混ぜて持っていたほうが良いのでは、という発想である。

金融のプロのあいだで最も有名なのは、債券4で株式6の割合で持つというものだ。そこで過去半世紀の間に、米国株式(S&P500)だけを持ち続けた場合と米国株式60%と債券40%を持ち続けた場合の比較データをお見せしたい。

パフォーマンス比較(株100% 対 株60%・債券40%)1972 – 2023

 年平均増加率変動率最大下落率シャープレシオ
米国株式(S&P500)17.9%15.4%-51.0%0.42
米国株60% 米国債券40%16.8%10.0%-27.8%0.49

(Market Sentimentのデータに基づく)

これを見ると明らかなように、株式100%の年平均増加率が17.9%に対して株式60%・債券40%の年平均増加率は16.8%と両者そんなに変わらない。債券なんて株や不動産に比べて大して増えないのではないか、と思っている人が多いと思うが、債券もぜひ投資対象に加えるべきであることはこれからもわかる。

増加率だけを見て、「でも結局は株だけのほうが、パフォーマンスが良いじゃないか」というふうに思う向きがあるかもしれない。しかし、リスクの大きさが違う。株60%債券40%の最大下落率は27.8%と、株式100%の51.0%に比べて、ずうっと小さい。ややテクニカルな話になって恐縮だが、同じ利益率ならばリスクが小さいほうが優れているのだ(シャープレシオとはリスクを示す指標)。

人生は長く、投資も長く続けていくものだ。資産を出来るだけ安定的にしかし増やしていくためには分散投資は不可欠なものである。

(小田切尚登)

プロフィール

小田切 尚登(おだぎり・なおと)

明治大学グローバル経営大学院ビジネス研究科兼任講師(金融論)、音楽家

東京大学法学部卒。バンク・オブ・アメリカ、バークレイズ、BNPパリバなどの大手外資系金融機関でアナリスト、資金運用部門などで勤務。その後、経済アナリストとして独立。経済誌・新聞などで数多く寄稿しているほか、経済専門テレビ(米国)のCNBCとブルームバーグに出演した。現在、パシフィック・テック・ブリッジのシニア・アドバイザー、ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。音楽スペースのシンフォニー・サロン(東京・門前仲町)を主宰。1957年生まれ、東京都出身。

 

ワンポイント用語解説

商品取引(しょうひんとりひき)

農作物や鉱工業の材料などの商品を先物で取引するもの。代表的な商品に原油、金、プラチナ、銀、銅、トウモロコシ、小麦などがある。株式とは異なる動きをするので、分散投資の観点からしても重要な運用対象である。ただし先物取引は少額の資金で大きな金額の売買ができるので、個人が行なうには投機的な側面が強く注意が必要だ。個人投資家が運用ポートフォリオの一部として保有する場合は、ETF(上場投資信託)などに投資するのが無難だろう。

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