モチベーションアップで業績も株価も上昇! MUFGが管理職クラスに「日本版ESOP」

三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306、MUFG)は、MUFGの子会社である三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で一定の要件を満たす管理職クラスを対象に、株式インセンティブ・プランとして「株式付与ESOP信託」を活用した「株式交付制度」(日本版ESOP=従業員自社株保有制度)の導入を決めた。2024年3年28日に発表した。

MUFGは、「社員一人ひとりが活き活きと活躍し、社会・お客さまに貢献するグローバル金融グループ」となることを目指している。その実現に向けて、MUFG の企業価値の向上と人的資本投資の好循環の強化とエンゲージメント・リテンションの向上を、導入の目的としている。

 

従業員が株主となることで「働きがい」や「誇り」が高まる

MUFGの「株式交換制度」は、ESOP信託の仕組みを採用する。

ESOP信託とは、米国のESOP制度を参考にした信託型の株式インセンティブ・プラン。会社が従業員に対して在職時、または退職時に自社株式を交付するスキーム。従業員へのインセンティブの付与を主たる目的として、自社株式の値上がりが従業員の利益につながるため、業績アップを目指して従業員のモチベーションの向上が期待できるといったメリットが見込める。

その半面、株価が下がれば、モチベーションがダウンしたり、損失補填を企業が負担しなければならなくなったりするなどのデメリットもある。

 

具体的には、あらかじめ定める株式交付規程に基づき、MUFG株とMUFG株の換価処分(財産を処分してお金に換えること)金額相当額の金銭を、一定の要件を充たす管理職(対象となる従業員)に交付または給付する仕組み。

対象となる従業員がMUFG株を保有することで、MUFGの成長による経済的な利益を享受できることから、一人ひとりが中長期的な視点での企業価値やROE(自己資本利益率)の向上に努め、さらなるリーダーシップを発揮することを促す。

また、対象の従業員が株主となることで、働きがいや誇りが高まり、エンゲージメントの向上につながることが期待できるほか、インセンティブの多様化によるリテンション(人材の流出防止)効果も期待できるという。

なお、この制度に基づくESOP信託の取得株式などの詳細について、MUFGは「決定次第改めてお知らせする」としている。

 

自社株買いの急増、「日本版ESOP」の導入に無関係ではない……

ここ数年、従業員による自社株の保有を促す制度整備が進んでいる。2008年10月の政府の追加経済対策で「日本版ESOP導入促進のための条件整備」が掲げられ、経済産業省や金融庁がそれに対応した施策を打ち出していることがきっかけだ。

日本版ESOP(従業員自社株保有制度)が登場した背景には、株主構造の急激な変化や世界的な敵対的買収の増加、株主還元で急増した自己株式への対応などがあげられる。

また、導入には従業員へのインセンティブの付与や従業員株主を増やすこと、従業員持株会への自社株の安定供給といった効果が見込める。

 

自社株式を活用した従業員向けのインセンティブ・プランを、すでに導入している企業には、トヨタ自動車や第四銀行、シマノ、サイボウズ、ダイドーリミテッドなどがある。

トヨタは、1998年7月から管理職・社員の自社株購入への奨励金の付与、2007年7月からは導入されたカフェテリアプラン(選択型福利厚生制度)のメニューの一つとして用意した。第四銀行は、2000年6月から株価連動の一時金を制度化。ストックオプションの付与対象外の行員に対して、購入時(00年6月)と2年後(02年6月)の株価の差額を一時金として支給するようにした。

日本空調サービスは2004年6月に、創業40周年記念として、社員への感謝を表す意味から会社が保有する自己株式を、一定の条件を満たした社員に対して100株ずつ、無償で贈与した。

ケースはさまざまだが、インセンティブ・プランの浸透により、導入する企業は増加傾向にある。

 

2023年3月、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの上場企業に資本収益性や成長性の観点で課題があることを指摘したことで、「自社株買い」が急増した。

自社株買いには、市場に流通している株式数が少なくなり結果として株価が上昇するため、株主(投資家)への利益還元の効果が見込めるほか、ストックオプションの取得、敵対的買収への対策などの目的もある。

手に入れた自社株式(ストックオプション)を、将来的に役員や従業員に“報酬”として与えるケースが増えてきているのは、最近の自社株買いの急増と無関係ではないのかもしれない。

 

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