【第4話】自己資本比率を観察しよう ススム先生の「タイパ決算書分析」塾

企業にとって“居心地のいい”自己資本比率がある?

 

自己資本比率は高すぎても効率が悪いし、低すぎても安定性に欠ける。その企業にとって居心地がいい自己資本比率というものがあって、極洋にとって20%台は低すぎたのかもしれません。

 
 

人の体温とか血圧とか、個性のようなものかもしれないですね。

 
 

たまにはいいこと言うわね。でも先生、極洋のように利益が出ている企業は自然と純資産が蓄積してそのうち50%になり、100%になるのではないですか?

 
 

いいところに目をつけましたね。負債は借入金だけではありませんから100%になることはないですが、相応に上昇する可能性はあります。その時も経営者のビジョンが見えてきます。

 
 

メーカーだったら設備投資、商社だったら仕入れ強化、飲食だったら店舗展開など、拡大して総資産が増えていくということですか?

 
 

それで利益も増加していく、まさしく複利効果が具現すればいいですが、マーケットの大きさや変化、競合、人の確保、資金などマネージメントはそこまで単純で簡単ではないですね。一見好調、問題ない大企業でも、いろんな荒波があってそれを工夫して乗り越えてきているし、今後も問題解決しながら、アップダウンしながら発展するということなのですよ。

 
 

そうか。楽勝、左うちわの仕事ってないのか……。

 
 

そうですね。それでも経営を続ける、時に見極め、損切りは大切ですが、事業継続の意思が重要なんです。「商いは飽きないこと」です。

 
 

受験の「継続は力なり」みたいなものですね。

 
 

そうですね。で、話は戻りますが、自己資本比率の上昇は、株主から見たらどうですか?

 
 

会社が安定していくわけですから、無条件に賛成だと思います。

 
 

私もそう思う。やはり負債が多いのは好きじゃない。

 
 

お二人とも従業員や融資している銀行のような感覚かと思います。実際、日本の上場企業の約半数は無借金という記事を見たことがあります。でも、いいことなんでしょうか?

 
 

それは、負債を増やして利益を上げるということですか? 前回(第3回「財務ハイライトで考えよう」)の講義でやりましたね。

 

 

 

はい。よく覚えていましたね。
本来はもっと成長して稼いで配当して欲しい、成長にしないなら蓄積した純資産を配当や自己株にして株主に還元しろ、と思うのはどうでしょう?

 
 

あ、そうか、高配当! 私の夢は配当金で楽な生活をすることなんです。

 
 

僕もそうです。楽したい。

 
 

では、次回は「自己資本とそれに絡む株主還元、高配当はほんとうにいいことなのか」などについて、考えてみることとしましょう。

 

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ「幸せになる3つの買い物」監修、映画「シャイロックの子供たち」銀行監修。 兵庫県神戸市出身。  

 

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