【第11話】決算発表を分析しよう!ススム先生の「タイパ決算書分析」塾

 

カブオ君、マナミさん、「タイパ決算書分析」塾、第11回です。
 5月10日、極洋の24年3月期の決算が出ましたね。復習を兼ねて分析しましょう。決算の数字は会社四季報(東洋経済新報社刊)などにも掲載されますが、せっかくですからIRサイトから見ていくことにします。
カブオ君、まず、どの数字に注目しますか?

 

売上高、営業利益、経常利益、当期純利益に注目!

 

はい。売上高、営業利益、経常利益、当期純利益といった業績に注目したいと思います。

 
 

それで良いですね。財務ハイライトを見ていきましょう。

 
 

カブオ君、2024年3月期だけを見るのではなくて、推移をみるのが大切よ。

 
 

ガッテン! 承知しております!!
まず24年3月期の売上高は2,616憶4百万円で、前年が2,721億67百万円でしたので105億63百万円、約3.8%の減収となりました。過去4年の間では21年3月期に133憶22百万円、約5.0%の減収を経験しています。21年3月期以降は増収が続き、23年3月期は2,721億67百万円を計上しましたので減収はやや残念ですね。

 
 

それでも22年3月期の売上高は超えているわ。

 
 

会社が2月2日に発表した決算短信では、通期予想を2,620憶円としていましたので、やや届きませんでした。ちなみに過去の通期予想を見ると、昨年5月12日短信では3,000億円、8月4日、11月6日の短信でも3,000億円でした。

 
 

会社という内部であっても、1年先、半年先を予想するのは難しいのね。

 
 

次に営業利益ですが、88億6百万円で、前年が81億5百万円でしたので7億1百万円、8.6%の増益となりました。営業利益は20年3月期が29億18百万円ですから約3倍に増えています。すごいな!この間、減益は一度もありません。

 
 

では、経常利益は?

 
 

 経常利益は88億56百万円で、前年が81億82百万円ですから6憶74百万円、約8.2%の増益です。経常利益も20年3月以降、増益が続いています。20年3月期が36億8百万円でしたから約2.4倍に増えています。

 
 

この間の決算短信の予想の推移を見ましょう。2月2日の決算短信では通期予想を86億円としていましたので、やや上振れました。ちなみに過去の通期予想では、昨年5月12日の短信では85億円、8月4日、11月6日の短信でも85億円でした。期初に設定した経常利益85億円の目標を達成したということだと思います。
次に、純利益の推移はどうですか?

 
 

純利益は59億36百万円で、前年が57億82百万円ですから1憶54百万円、約2.6%の増益です。純利益も20年3月以降、増益が続いています。20年3月期が20億37百万円ですから約2.9倍に拡大しています。今まで良く知らなかったけど、いい会社だなー

 

 

株価もチェック!

 

せっかくですから、この間の株価をチェックしてみましょう。

 
 

はい。20年3月末は2,545円、21年3月末が3,055円、22年3月末が3,330円、23年3月末が3,425円、24年3月末が3,740円で、20年3月末と比べると1.4倍です。利益の伸びに比べて株価の伸びは低いですね。

 
 

配当などの影響もありますね。ちなみに、この間の配当金の累計は340円です。厳密ではないですが、1株当たりの配当金を株価単純に加算すると24年3月末は4,080円で1.6倍という感じです。それでは相場全体を見るものとして、この間の日経平均株価はどうですか?

 
 

20年3月末は18,917円、21年3月末が29,178円、22年3月末が27,821円、23年3月末が28,041円、24年3月末が40,369円です。20年3月末と比べると2.1倍ですね。

 
 

日経平均株価は特定の銘柄の影響が大きいなどの特徴がありますが、同時期、極洋の株主はどう感じたと想像しますか?

 
 

悔しい! 日経平均株価のETF(上場投資信託)を買っておけばよかった!

 
 

配当はきちんと出ているし、しかも増配しています。株価は買値を割らず含み益になっているし、株主優待もあるし、自分の投資目的、スタンスにあった結果だから満足、と思う投資家も多いと思うわ。

 

 

同業他社と比べてみる

 

そうですね。同じ現象でもその人の考え方やスタンスで変わって見えます。要は、自分が求めるものは何か、を自問自答することがスタートであり、大切なのです。
そうそう、同業種の会社を見ておきましょうか? マルハニチロ、東洋水産、ニッスイはどうかな?

 
 


マルハニチロの20年3月期純利益は147億68百万円、24年3月期は238億50百万円で約1.6倍、90億82百万円の増益、株価は2,258円が2,973円で約1.3倍となっています。
東洋水産の20年3月期純利益は233億79百万円、24年3月期は556億53百万円で約2.3倍、、322億74百万円の増益、株価は5,220円が9,475円で約1.8倍となっています。

ニッスイの20年3月期純利益は147億68百万円、24年3月期は238億50百万円で約1.6倍、90億82百万円の1.6倍の増益、株価は478円が960円で約2倍になっています。

極洋の株主はこれら同業他社の株価の伸びが羨ましいと思うかもしれませんが、業界としては成長しているんですね。

 
 

じつはそれが一番驚きました。水産業って、ほとんど成長をしていない安定業種で、業績や株価は横バイが続いているのかと思っていました。

 
 

そこは大切ですね。良くも悪くも我々のイメージなんて当てにならないのです。

 
 

先生もですか?

 
 

もちろんです。人間って無意識に「自分は正しい」と思って行動しているという話を読んだことがあります。不安だらけでは生活できないですよね。でも、実際はそうでもないことも多い、ということです。

 
 

あ、それ、昔の彼女に言われました。「なんでもかんでも、自分が正しい、私の言うことを間違っていると言うのが嫌い」ってフラれました。

 
 

昔の彼女さん、正しいわ~

 
 

では、次回は自己資本まわりと、総資産利益率などについて分析してみましょう。同日に発表されたIR説明会資料、中期経営計画も読み応えがありますから目を通しておいてください。

 
 

はいっ!

 

 

プロフィール

井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ「幸せになる3つの買い物」監修、映画「シャイロックの子供たち」銀行監修。 兵庫県神戸市出身。

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