【防災の日】災害大国ニッポンで、あなたは資産をどう守る?

9月1日は「防災の日」でした。1923(大正13)年のこの日、相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9(推定)の大地震が発生しました。関東大震災です。その後、1995(平成7)年1月17日に阪神・淡路大震災(M7.3)、2011(平成23)年3月11日の東日本大震災(M9.0)、16(平成28)年4月14~16日の熊本地震(M7.0)、18(平成30)年9月6日の北海道胆振東部地震(M6.7)、そして今年(令和6年)1月1日には能登半島地震(M7.6)が発生。さらに、8月8日には日向灘を震源とするM7.1の地震が起こり、2019年に運用を開始して以来初の南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意報)が発表されました。

日本は「地震大国」です。いつ、どこで巨大地震が発生してもおかしくありません。地震は同時に、津波や海面の隆起、地割れ、火山の噴火などを誘発する恐れがあります。東日本大震災では、12都道県で1万5900人が亡くなり、今なお2520人もの行方不明者がいます(2024年3月8日時点)。

改めて「資産をどう守ればよいのか」、いざという時のために「どう備えておけばよいのか」考えてみましょう。

 

わが家の資産状況を知っておく

災害時、地域のインフラが崩壊。電気やガス、水道が使えなくなり、道路が寸断されたり、住宅や施設、工場が浸水したり倒壊したり……。いずれも復旧には時間と費用がかかります。「どうなるんだろう」「いつ、もとの生活に戻れるのだろう」と不安になるのも当然です。

そんな、いざというときの出費に備えるお金は、何と言っても「現金」です。次いで換金性の高い預貯金で準備しておくことをオススメします。

ただ、セキュリティを考えて、お金を簡易な金庫にしまっておく人もいますが、災害の規模が大きくなると、持ち出すことができなかったり、倒壊後の家屋から盗まれたりするリスクがあり、あまり得策とはいえません。まずは手元に当座をしのぐための現金を用意したほうがいいようです。

 命が助かったとしても、ローンが残っているのに建てたばかりの家が土砂に埋もれた、職場が被災した、収穫直前の果実が全滅した、家財といっしょに銀行の預金通帳や印鑑が流された、空き巣に“たんす預金”を盗まれた……。次々に不安が膨らみ、これではとてもではありませんが前を向いて生きてはいけません。

現金や預貯金、有価証券のほか、住宅(不動産)や家財、クルマや貴金属・宝飾品、美術品などを有形財産といいます。企業でいえば、オフィスや工場、設備機械、在庫品などがこれに当たります。しかし、土地・住宅やクルマなどの資産を保有している人の中には、家を買うために住宅ローンを組んでいる人や家財やクルマなどの購入に利用したクレジットカードなどの負債(借金)を抱えている人もいます。

借金を抱えた人が自然災害に遭い、住宅が全壊したりクルマが流されたりすると、資産を失い、多額の負債だけが残ることもあります。災害に備えて、“わが家の資産と負債”を把握しておいたほうがよいでしょう。財産の記録を作成しておくのもいいかもしれません。また、用意した財産記録は預金通帳などとは別にして、できれば携帯できるようにしておくといいかもしれません。

ちなみに、有形財産に対して「無形財産」があります。これは特許権や商標権、アイデア、ブランド価値といった知的財産権、人的資本などの物理的な形状をもたない資産をいいます。

財産の記録(例)
預金・有価証券
金融機関支店口座番号残高/価格種類・銘柄メモ
いろは銀行▲▲112234◎◎万円普通預金
○○銀行▲▲駅前123456○▲万円定期預金
XYZネット証券▲▲987650○×万円しにせ商事、かくえき電鉄、○◆投信
ローン
金融機関支店口座番号残高種類・銘柄メモ
いろは銀行▲▲123456○△○○万円住宅ローン2022年10月借り入れ、月12万円、残り15年
マンション管理費 月32,000円
いろはクレジットカード○△万円フリーローン2023年4月借り入れ、月2万円残り6回
いろはマイカーローン××万円2000年4月借り入れ、月4万円残り16回
保険
保険会社種類・証券番号、契約日メモ
○△損害保険 火災保険 証券番号:123456
2010年10月契約地震保険
証券番号:987654 2010年10月契約
××特約付き
□△損害保険 自動車保険 証券番号:よ801234
2000年4月契約
対人・対物、搭乗者、車輛
ほへと生命 死亡保険 証券番号:100234
1999年10月契約
◇◇特約付き
個人年金保険 証券番号:200987
2000年12月契約
ABC生命 医療保険(がん保険)証券番号:908765
2020年12月契約
●×保険 学資保険 証券番号:ほ1005678
2016年8月契約

いざという時のため、通帳や印鑑といっしょに「資産の記録」が非常用持ち出し袋に入っていると安心できます

※覚えておいたほうがよい番号
  • 基礎年金番号
  • マイナンバー
  • 健康保険証番号
  • 介護保険証番号

ふだんの家計から計算、災害時1週間分を目安に現金を用意

大規模災害に見舞われた場合、一般に非常時の保存食や飲料水などは家族の人数分×最低3日分。ライフラインが止まった場合を想定すれば、少なくとも1週間分の食料品や飲料水、生活用水だけでなく、衛生用品や衣料品などを購入する必要が出てくるかもしれません。これを踏まえれば、“当座をしのぐ”という意味合いで、まずは1週間分の生活費を目安にお金を用意しておくといいかもしれません。

いざという時の被災時に生活するうえでのリスクへの備え(緊急予備資金)は、日頃の生活費の1か月~3か月分のお金があるとよいとされています。

また、住宅やクルマのような資産は現金化しづらいですが、銀行等の預貯金であれば、キャッシュカードがあれば、ATMなどで引き出せます。

 かつて株券が発行されていた時代は、被災時に株券を消失してしまうことがありましたが、現在は電子化され、その心配がありません。どうしても現金化しなければならないのであれば、株式を売却してお金を用意することもできます。

一方、資産の損失を最小限に抑える方法には、保険への加入があります。地震保険や火災保険に加入しておけば、住宅や家財に被害(損害)が生じたときに一定の保険金が支払われます。自動車保険も加入していれば、クルマに損害が生じたとき、保険金が支払われます(ただし、保険内容や特約の付与によって補償の範囲は異なります)。

資産を分散しておくことも有効です。預貯金や投資信託などの金融商品は、土地や住宅と違って、複数の金融機関や金融商品に分散させることができます。それにより、金融機関の不測の事態や金融商品の値下がりなどの影響を限定することができます。

預貯金では、複数の金融機関に分散して預けておくこともオススメ。被災時には金融機関によってはお金の引き出しに時間がかかったり、引き出す金額が制限されたりすることがあります。ただし、どの金融機関にいくら預けているのか忘れないように。引き出そうとしたら残高が足りなかったということがないよう、確認しておきましょう。

首相官邸ホームページ「災害の『備え』チェックリスト」より(左)

首相官邸ホームページ「災害の『備え』チェックリスト」より

通帳なし、印鑑なし、身分証明書なし… どうする!?

金融機関でお金を引き出すには、キャッシュカードか、通帳と印鑑が必要です。とはいえ、災害時に通帳や印鑑を持ち出せなかったり、紛失したりするケースがないとはいえません。お金は銀行預金には入っています。お金が引き出せさえすれば、生活はどうにかまわります。そんな状況のとき、どうすればよいのでしょうか?

結論をいえば、大規模災害が起きたとき、キャッシュカード、通帳や印鑑がなくても、本人確認がとれれば預金を引き出すことはできます。

日本銀行は被災地の金融機関に対して「災害時における金融上の特別措置」を要請。これを踏まえて金融機関は、印鑑や通帳がない被災者に対しても預金の引き出しに応じるよう、柔軟に対応をすることになっています。

このとき大切なのは、本人であることを証明できる「身分証明書」です。氏名や住所、連絡先等を申告して身分証明書を提示することで本人であることが確認できれば、お金は引き出せます。

身分証明書は、できれば顔写真付きのものがいいでしょう。運転免許証やパスポート、マイナンバーカード、在留カードや特別永住者証明書、身体障害者手帳など官公庁が顔写真を貼付した福祉手帳などがあります。運転免許証やマイナンバーカードを、ふだんからお財布などに入れて携帯している人は少なくないと思いますから、“いざというとき”にも手放さないようにしましょう。

また、健康保険証や年金手帳、後期高齢者医療被保険者証、介護保険被保険者証、母子健康手帳も身分証明書として扱うことがはできます。ただし、顔写真がないので、2種類の本人確認書類を組み合わせて提示するなどの“条件”が前提になります。

 

そして、もう一つ大事なことが「口座番号」です。本人と口座番号が合致しなければ、預金の引き出しはできません。通帳を紛失した場合、口座番号はわかりません。キャッシュカードであれば口座番号がわかりますが、ATMが動かなければ、お金は引き出せません。窓口で預金を引き出そうと思えば、キャッシュカードと身分証明書があれば、預金を引き出すのにあまり時間はかかりませんが、口座番号から探し出すとなると、即日引き出すことができないかもしれません。そんなとき、通帳の表紙をコピーしておいたり、銀行名と支店名、口座番号などをメモしておいたりすることをオススメします。

身分証明書があり、口座番号などの情報がわかれば、災害時でもスムーズに対応してもらえます。

 

やっぱり “現金最強説”!?

近年、ネット銀行やネット証券の利用が増えています。ネット銀行であれば、通帳がなくても、預金残高などはスマホでわかります。振り込みなどの決済機能もあれば、より便利に使えます。

災害時、ネット銀行でお金を引き出したい場合、コールセンターへ電話して本人確認ができれば、OK!本人名義の他行口座への振り込みが可能になりますし、手元にキャッシュカードさえあれば、コンビニATMからお金を引き出すこともできます(取引のある金融機関で確認しておいてください!)。

デジタル化の進展で、災害で現金が紛失する、盗まれるという事態は減っているようです。

 

とはいえ、大規模災害のときに“モノを言う”のは、まだまだ現金であることも否定できないようです。例えば、キャッシュレス決済の普及で、ふだん現金を持ち歩かないという人が増えています。しかし、災害時はキャッシュレス決済が使えなくなる可能性があります。送電設備等が被災して停電が起きたり、電波障害が発生したりすることで、店舗のレジやネットワーク回線が使えなくなるからです。そもそも、スマホの電源がなくなった! というだけで、買い物ができなくなります。お店も、「現金がなければ、食料や飲み物を売らない」というかもしれません。

すぐに復旧するのか、1週間、1か月かかるのか。システム障害の規模は、災害が発生してみなければわかりません。そう考えると、やはりしばらくは災害時には現金が“最強”のようです。

 

自然災害は地震ばかりではありません。24年8月最終週(26日週)は大型で非常に勢力の強い台風10号と線状降水帯が日本全国で猛威を振るい、大雨に突風、落雷、土砂災害や河川の氾濫が発生。少なくない死傷者と住宅の浸水、倒壊が起こりました。

 能登地方では今年1月1日に発生した大地震の爪痕が生々しく残っています。住民たちの生活は震災前には戻っていません。それどころか、11年3月11日の東日本大震災の被災地では、住まいから長期間の避難を余儀なくされたり、夫が被災地で就労、妻子が被災地から離れた場所に避難して二重生活を送ったりというケースが少なくありませんでした。二重生活となると、家計の収入はそのままでも、支出は 2 倍かそれ以上に増え、結果として収支がマイナスに陥りかねません。

さらにはマイホームが津波被害に遭い、一瞬にして住居を失うという痛ましいケースでは資産である住居を失う一方で多額の住宅ローンの返済だけが残ってしまう。住居を新築再建しても、その分の住宅ローンの出費が新たに発生するといういわゆる“二重ローン”に苦しめられます。

地震保険への加入など手立てがないわけではありませんが、一般に二重生活や二重ローンに備えるような余力はなかなか難しいでしょう。あえて“防衛手段”があるとしたら、住宅購入ではなく、賃貸を選択するということ。不動産という資産を持たないことかもしれません。

 

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