【第12話】経営の方向性や流れを感じよう!ススム先生の「タイパ決算書分析」塾
目次
経営の方向性や流れを感じよう!
カブオ君、マナミさん、「タイパ決算書分析」塾、第12回です。
前回は極洋が発表した2024年3月期の決算を材料に、損益面に注目して売上高、営業利益、経常利益、純利益の推移と株価の推移、同業他社との比較などを行いました。
地味な業界会社だな、というイメージを持っていましたが、思いのほか成長している点が新鮮でした。
私も過去からの推移などを調べているうちに愛着を感じてきました。ただ、同業他社に比較すると物足りなさも感じています。
そうですね。その「物足りなさ」は解消されるのか、を示すこともIRの役割の一つです。
前回は損益面をチェックしましたので、今回は財務状況を見ていきましょう。
まず自己資本から見ましょうか。
極洋を分析 カブオ君のシブい見立てにマナミさんが反論!
はい。純資産は588億60百万円で前期から118億94百万円、約20%増えました。増資の効果もあったと思います。自己資本比率は36.7%で前期比4.2%、約13%向上しました。
では、前々回に勉強した総資産経常利益率を見てみましょう。マナミさん、覚えていますか?
はい、総資産経常利益率(%)=経常利益÷総資産 で計算し、その構成要素である収益性と効率は (経常利益÷売上高)×(売上高÷総資産)に分解して計算できます。
そのとおりです。カブオ君、計算してみてください。前期との比較は必須ですよ。
任せてください!
総資産経常利益率=経常利益88億56百万円÷総資産1,607億20百万円=5.51%
です。前期は
総資産経常利益率=経常利益81億05百万円÷総資産1,463億01百万円=5.53%
です。向上したかと思っていたのですが、横バイか……
では、収益性と効率性に分解してみてください
まず収益性から計算すると
売上高経常利益率=経常利益88億56百万円÷売上高2,616億04百万円=3.38%
です。前期は
売上高経常利益率=経常利益81億05百万円÷売上高2,721億67百万円=2.97%
ですから、0.41%、約14%向上しています。とすると効率性に問題があるのかな?
総資産回転率=売上高2,616億04百万円÷総資産1,607億20百万円=1.62回
です。前期は
総資産回転率=売上高2,721億67百万円÷総資産1,463億01百万円=1.86回
ですので、0.24回、約13%悪化しています。
ふーん。なんだかな~
カブオ君の評価はシブめですね。
でも、その見方って単細胞、単純過ぎると思います。
なんですと(怒)!
総資産が増えた要因について検討していないからです。将来に向けて前向きの投資なら総資産の増加は必ずしも悪いことではないと思います。不良在庫が増えた、売掛金が回収できなくて不良化した、収益を生まない固定資産を増やした、などなら確かにネガティブですが、そんなに不良資産が増えたら利益率も低下したはずです。
それはそうだな。でも、ぼくらはタイパ世代だからか、どうも深く考えるのは苦手で。
私もタイパが好きですが、調べたり考えたりしたベースがあるタイパと表面だけ見るタイパでは質が違うと思います。先生、どうですか?
株価の急変に驚かない! 「なぜ、こうなったのか」わかる投資
「タイパの前に教育や学びが必要」という意見ですね。私も賛成です。
私が言うのもなんですが、利益や自己資本などの推移や自己資本比率だの総資産利益率だのは、いちいち計算しなくてもIRサイトや証券会社のサイト、株式情報サイトを見ればどこかに載っています。問題はそのデータの根拠を理解するベースがあるかどうかです。そのためには面倒でも一度は自分で計算することが大切だし、この講座でやっているように時系列で見る、前期比を見る、という作業をやっておくとより良い理解ができます。しかも高度な数学ではない、小学生で勉強する四則計算でほとんど事足りるのですから。
微分積分だと苦手ですが、この程度なら抵抗ありませんね。
極洋のように、一つの銘柄を追いかけるのは勉強になります。巷には「値上がり確実な銘柄」とか「儲かる銘柄」「高配当銘柄」などの言葉が広がっていますが、上がるか下がるか、ずうっと高配当か、などということは誰にもわかりません。
勉強していてもですか?
そうです。将来のことなんてわかりません。わかるとしたら“インサイダー”の世界です。それなのに○○銘柄で儲けよう、などと言うのは当てモノの世界なんです。
極洋にしたって今の株価は4100円前後です。増資で3800円まで下がったとき、4100円まで上がるとは想像しなかったでしょ。
はい。発行株数が増えるし、株価がここまで上昇するとは驚きです。
それがふつうです。一方、一つの銘柄を追いかけていると、「なぜ、こうなったのか」がなんとなくわかります。そうすると相場全体の急変で下がっても驚かない。カブオ君もマナミさんも相場を追いかける、というよりはじっくり持って資産を増やし、配当も欲しいという発想ですよね。
そのとおりです。
それなら会社を知る、そのために製品や商品、サービスを知り、簡単な財務分析を行って経営の方向性や流れを感じる、この作業は有意義です。
でも、タイパ的には手間がかかるから、多くの銘柄に投資できません。「投資は分散」って、言いますよね。
もちろん分散は重要です。友人で1銘柄の投資額は50万円以下で100銘柄以上保有している人もいます。買ったら放置して時々時間をずらして買う。これも一つの方法です。
10銘柄以下に抑えて一つひとつの会社の流れを実感する。これを手です。日経平均株価だけを追いかけてももいいし、投資信託だけでもいいし、ドル円だけでもいい。投資方法は100人いれば100通り。正解はないのです。
なるほど。何かの本で15銘柄以上あれば、分散効果が高まると読んだ記憶があります。その15銘柄についてストーリーを語れるくらいになれば、何があっても動じないですね。
そうですね。20~30銘柄を推奨する人もいますが、まあ、そんなところでしょう。ただ、いくら絞っても倒産するような会社であってはいけません。この点で財務分析が大切なんです。
次回は経営の方向性を紐解くため、極洋の中期経営計画を読みましょう。
はいっ!
プロフィール
井上 享(いのうえ・すすむ) 日本公認不正検査士協会認定 公認不正検査士(CFE) 1982年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大阪銀行(現:関西みらい銀行)に入行。退行後、会計知識、法律知識、犯罪心理学、調査手法の4つの分野の試験に合格し、かつ米国公認不正検査士協会の認定よって与えられる公認不正検査士(CFE)の資格を取得。金融関係の不正行為・不祥事を防ぐべく、活動している。 主な著書に「銀行不祥事の落とし穴 第1巻、第2巻」、「中小企業融資自己査定Q&A」、「説明義務・勧誘ルールと苦情対応事例集」(いずれも、銀行研修社)。現在、月刊銀行実務(銀行研修社刊)に「金融不祥事 転落の死角」、金融経済新聞に「STOP! 不祥事!」を連載中。 ドラマ「幸せになる3つの買い物」監修、映画「シャイロックの子供たち」銀行監修。 兵庫県神戸市出身。